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通勤は国境を越えて:スイスで働くヨーロッパのリアル

「給料は3倍、休みは60日以上」——そんな働き方が本当にあるのでしょうか?
ヨーロッパでは“国境を越えて通勤”することが当たり前になっています。
今回の旅を通じて、そのリアルな実態と日本への示唆を感じた体験を紹介します。
2024年2月のテト休暇では、現地在住のフランス人・ドイツ人の友人と再会することができましたが、その内の2名、アンソニーとシンディーに会った際に印象的だった話があります。
アンソニーは、フランス在住でありながら、スイス・バーゼルの企業で働いています。
アンソニーのように、住まいはフランスやドイツ、職場はスイスという「越境通勤」はこの地域では当たり前の働き方のようです。後から調べてみると、実際にヨーロッパではこうしたスタイルが広く定着していることがわかりました。
これは、給与水準の高いスイスにおいて、生活コストを抑えるために隣国から通勤する人々が非常に多いためです。調べてみると、リヒテンシュタイン公国でも同様に、オーストリアやスイスから働きに来る人が多数いるとのことでした。
スイスの近隣諸国から国境を超えてスイスに通勤し、数倍の給与を得ている人がいる。
一方で語学習得は必須。友人のアンソニーはフランス語と英語を使って仕事をしていますし、フランス語・ドイツ語ができなくても、建設や職人などの何かしらのスキル(ベトナム語しか使わない例もある)を持っている上で成り立っているのは事実です。
スイスの物価は3倍!?それでも働きに行く理由

今回の旅を通じて感じた感覚値では、スイスの物価は日本の約3倍。
実際にアンソニーから直接聞いた話によると月給ベースの比較は以下の通り:
フランスやドイツは日本と同水準に近いですが、スイスだけ突出しています。
この差が、越境通勤の大きな動機になっています。
フランス在住でスイス勤務の友人は、月収が数倍になったことで、安心して自宅を購入し、年に1ヶ月はバカンス旅行も楽しめるほど、生活も大きく安定しているということでした。
年60日のバカンスも?ヨーロッパの“長期休暇”の常識

ヨーロッパ全体に共通するのは、長期休暇を前提とした働き方。
スイスでは年間30日以上の有給休暇があり、フランスではバカンス文化が根強く、企業によっては60日近く取得するケースもあるようです。
これらの文化が、仕事と生活のバランスを取る上で非常に大きな役割を果たしています。

ちなみに、実際にスイスで越境通勤している友人は「30日間のバカンスじゃ全然足りない」と笑って話していました。
バーゼルで働く越境通勤をする日本人に出会ったときの話

旅の中で実際にフランスに住みながらバーゼルで働く越境通勤を実践する日本人に偶然出会いました。驚いたことに、バーゼルには約500名以上の日本人が住んでいるとのこと。
駐在員、音楽家、銀行員、商社関係者など、多様なバックグラウンドの人々が集まっています。
シェンゲン協定のもと、ビザに関しても一定の緩和がなされており、生活圏が“国境を越えて”広がっているのを実感しました。
欧州各地で出会った国境を越えて夢を追うベトナム人たち

このような越境型の就労モデルは、ベトナム出身の労働者にも広がっています。
実際に旅の中で、ドイツの列車やレストランなどで、より高収入を求めて他国で働くベトナム人と出会うことがありました。多くはサービス業や建設、工場労働に従事しており、国籍や言語の壁を越えて新天地でチャンスをつかもうとしていました。
彼らは多くがサービス業や建設、工場労働に従事しており、国籍や言語を越えてチャンスをつかみに来ている印象でした。
ベトナム国内の就労機会に限界を感じ、海外に活路を求める動きは以前からあったようですが、近年はヨーロッパ各国にもその流れが広がっていることを肌で感じました。
日本とは全く違う!“生活圏が国を越える”ヨーロッパ的価値観

ヨーロッパでは、国境を越えた通勤がごく自然なライフスタイルです。
- 🇱🇮 リヒテンシュタインでは労働者の約46%が国外(特にオーストリア)から通勤
- 🇨🇭 サルガンスでは約60%が町外で働いており、国外勤務者も多い
- 🚌 ドイツやフランスから、スイスへ通勤する人は日常的に存在
- 🌐 この働き方を支えるのは、鉄道・道路などのインフラ、ビザや税制協定といった制度整備
ヨーロッパでは「生活圏=ひとつの地域」として捉える感覚があり、たとえ国境をまたいでいても、同じ経済圏・通勤圏として生活する人が少なくありません。一方、日本では“国境”どころか“県境”さえも意識することが多く、こうした感覚の違いは興味深いです。

特にスイスにおいては、スペインや中南米からも出稼ぎ来ている印象でした。
まとめ

何をやるのか、どこに住むのか、どんなスキルを持っているのか、ビザはどうするのかという問題はありますが、そのすべてを“国境”で縛らなくてもいい、という視点を得ることができました。
「場所」にとらわれず、「条件」で働くという発想が、ヨーロッパでは現実になっています。働く場所を変えるだけで、所得が数倍になるという世界が存在するという事実があります。
日本でも「地方在住×都市圏の仕事」といったリモート就労スタイルは徐々に広がってきていますが、越境型通勤・就労の柔軟さや国・自治体間の連携という点では、まだまだ課題も多いです。この動きを促進するには、語学力やITスキル、プロジェクトマネジメント能力などが鍵となります。それらのスキルを育て、世界の“報酬水準が高い市場”とつながることが、個人や地域の未来を開く手段になるでしょう。
将来的には、日本国内やアジア圏でも、専門性や経験、言語力、ITリテラシー、マネジメント能力など、仕事で高い価値を提供できるスキルがある人材が、スイス、リヒテンシュタインのような高付加価値エリア(報酬水準が高く、経済活動が活発な地域)とつながるような、地理的制約を超えた就労モデルがもっと広がっていくであろうと感じました。
「働く」と「暮らす」を分断せず、国境すらも“条件のひとつ”として柔軟に選べる世界。今、ヨーロッパの現場では、そんなライフスタイルが日常として存在しています。
日本やアジアでも、そうした「地理を超える働き方」が“当たり前”になる日は近いのかもしれません。

もし“場所”に縛られずに働けるとしたら、あなたはどこで、どう生きますか?